(2020年4月)

~ 新型コロナ「パンデミック」で考えたこと ~

ウィルスは、電子顕微鏡でなければ見えないほどの微粒子です。ヒトや動物などに寄生して、はじめて増えることができます。いわゆる“風邪”の原因は、200種類以上とも言われるウィルスが原因です。咳・はなみず・のどの痛みなどの症状がでます。ヒトに感染するコロナウィルスは、風邪のウィルスです。野生動物にだけ感染する種類のコロナウィルスが、ヒトに感染しやすくなる変異を起こしたものが、新型コロナウィルスです。感染しても80%以上は軽い風邪症状ですみますが、高齢者・喫煙者・慢性疾患(糖尿病や腎不全、免疫が下がる治療を受けている方など)をもつ人には、肺炎を起こす危険性があることが特徴です。治療薬の候補が見つかることを願いつつも、コロナウィルスのように、変異しやすいウィルスに対するワクチンの開発は、かなり難航が予想されます。そもそも風邪に対するワクチンや治療薬も、発明したらノーベル賞だと言われているのですから。

今求められていることは、風邪症状や発熱があれば、コロナかどうかを心配する前に、無理せず休養をとり、体力を維持し、しっかり自宅安静=他人にうつさない、ということです。“ウィルスが人に感染するのではなく、人がウィルスを感染させる”のです。感染予防策は、特別なものではなく、風邪やインフルエンザの場合と同じです。風邪というものは、こうして広がるから、こうして予防する、ということが、徹底的に周知されているわけです。国ごとで異なる生活習慣、居住環境、医療体制によって、感染拡大や被害の大きさが影響を受けることも、改めてクローズアップされています。

WHOは3月11日、新型コロナウィルス感染症を「パンデミック(世界的大流行)」と表明しました。歴史的には、交易や戦争をきっかけに天然痘やペスト、スペイン風邪などが世界的流行をみとめたように、感染症は人の移動によって拡大します。近年、世界中に張り巡らされた航空網に乗って、ウィルスの感染拡大のスピードは速まっています。このたびのパンデミックで、コロナのことよりも、「これが新型インフルエンザだったら、どうなっているだろう?」という想像が、毎日のように頭の中を去来しました。

鳥やブタの間で流行するインフルエンザが、ヒトへ感染することは稀ですが、中国や東南アジアでは、飼育された鳥類との濃厚接触により、強毒性の鳥インフルエンザがヒトに感染する事例が相次いでいます。ひとたびヒトからヒトへ感染しやすくなる変異を起こせば、急速に拡散します(これが新型インフルエンザ)。10年前の新型インフルエンザは、メキシコから発症したブタ由来のものでした。毒性が弱く、日本では毎年流行するインフルエンザ(季節性インフルエンザ)と同じ程度の被害で済みました。季節性インフルエンザでは、鼻・のど・気管などの呼吸器に感染しますが、強毒性の新型インフルエンザでは、脳や肝臓をはじめ、全身の臓器に感染するため、致死率は10%以上とされます。

このたびの 日本政府の対応は不安でした。もし強毒性の新型インフルエンザだった場合、すでに非常事態宣言、医療崩壊、国家・社会機能は停止し、多数の犠牲者が出ていたかもしれません。外交面での忖度が優先された結果、対策が後手に回ったことは否めません。対照的なのは、台湾の対応です。過去に重症急性呼吸器症候群(SARS)で多くの犠牲者を出した経験を活かし、中国と対立する蔡政権は、中国人の入境を早期に禁止しました。マスクも当局が管理し、混乱がみられません。訪日外国人が急増した近年、水際対策前には、すでにウィルスは日本に侵入していると想定するべきです。その後の矢継ぎ早の自粛対策に、独断だとの批判も出ましたが、国家レベルの危機管理には、政治決断が必要です。未知の病原体によるパンデミックには、巨大地震と同様か、それ以上の対策が求められます。

連日の報道に目が離せない、という人も多いでしょう。診察室では、「いつ収束するのでしょうか?」との質問も受けるようになりました。誰も分かりませんが、長期戦になることは間違いなさそうです。3月末現在、都市部以外では、新たな感染者数の“急拡大”は抑えられており、自粛などの対策で一定の効果があったと評価できます。PCR検査が伝家の宝刀の如く伝えられていますが、精度は高くなく、今の日本の状態では、闇雲に検査を増やすことが正しいとは思えません。検査対象は、濃厚接触者と、医師が必要だと判断した、主に肺炎患者さんに限定するべきだと考えます。今後の推移を見守りましょう。