2015年8月

~宇宙飛行士に学ぶ~


宇宙飛行士 向井千秋さんの講演がありました。『宇宙飛行から学んだこと-宇宙医学は究極の予防医学-』。向井さんは、もと心臓外科医。無重力状態の宇宙へ行くことは、加齢現象と同じである。そんなユニークな発想のもと、日々研究を続けておられます。宇宙に滞在すると、骨は10倍の速度で、筋肉は2倍の速度で弱くなっていくそうです。これらの変化は、骨粗鬆症や筋肉の萎縮(ロコモやサルコペニア(下記))といった加齢現象と、非常によく似ています。「宇宙飛行士は究極の寝たきり状態」とも言われる所以です。宇宙空間で自律神経や体内時計のリズムが乱れることは、血圧の変調や不眠症につながります。宇宙放射線の影響で免疫力が低下することは、がんの発症などに関わります。宇宙での悪影響への対策を考えることが、加齢に対する予防医学に生かせるというわけです。

ロコモティブシンドローム(略してロコモ)とは、「運動器の障害によって、移動能力が低下した状態」のことです。運動器というのは、骨や筋肉など身体を動かす器官のことを指します。加齢により、足腰が弱って歩けなくなることです。ロコモに至る原因には関節痛のほか、筋肉そのものが弱ってしまう “サルコペニア“ が注目されています。サルコ(筋肉)ペニア(失う)という意味です。加齢により筋肉量・筋力・身体能力などが低下した場合に診断されます。アジア人では65歳以上の15~20%にみられるようです。肥満にサルコペニアを合併すると”サルコペニア肥満“と呼ばれます。体重が変化しなくても、筋力が低下している場合、筋肉を失った分、脂肪に置き換わっていることを意味します(図)。運動をせず、中年期からの肥満を放置すると、筋力が衰えてサルコペニア肥満となります。転倒・ねたきり・心血管病の危険性が高まります。予防対策としては、運動に加えて栄養(たんぱく質)摂取を行うことです。今のところ、いわゆる自助努力が必要で、特効薬はありません。

宇宙飛行士は地球に帰還すると、重力の大きさを思い知るそうです。身体が重くて歩くのもやっと。名刺大の紙にも重さがあることを強く感じ、普段意識しない重力の存在に圧倒されるそうです。そんな向井さんの話を聞いて思いました。地球上に生を受けた以上、赤ちゃんのつかまり立ちに始まり、ヒトは重力に逆らって生きる宿命にあります。高齢化で肉体の耐用年数は延びました。それなりのメンテナンスが必要となります。重力に逆らう体操や運動を続けて筋力を維持することこそが、加齢に負けない健康づくりへの第一歩となるのではないでしょうか。