2017年6月

~「情報洪水」の時代に~

イギリスのEU離脱や、アメリカの大統領選挙で取り沙汰された、フェイクニュース(うそのニュース)。主にインターネット上で広がり、国民の行動に大きな影響を与えたとのこと。ネットの情報は、“速く、手軽に”伝わる一方で、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを介して予想以上に“拡散”してしまいます。情報が誤っていたり、意図的な偽りの場合には大きな影響が出るでしょう。最近では、某大手企業が運営する健康情報サイトが問題に。記事の盗用や、「肩こりの原因は幽霊」(さすがに誰も信じないでしょうが)などと医学的根拠のない記事を掲載したため、健康被害が及ぶ可能性が指摘されました。「症状をネットで検索すると、怖い病名がいっぱいで不安に」と受診される患者さん。ネット情報のもう一つの特性として、検索した言葉や関心事についての情報が、一方的に入ってきてしまう面があります。例えば、「血圧は高い方がよい」という文章で検索すると、同調した結果がずらりと並び、「薬は飲んじゃダメ」などという言葉が目に入ってきます。「皆もそう思ってるんだ」「ほら、やっぱり正しかったのだ」と、勘違いしやすいわけです。自分の考えを正当化し、都合の悪い情報を避けるのには便利です。

最近低迷しているテレビからの情報はどうでしょうか?以下は当時大学生だったKさんの体験談。ある日、TV番組の取材に誘われました。上半身裸で恒温室(温度を精密に一定に保てる部屋)の中へ。熱々の長崎ちゃんぽんを食べて汗をかく実験だと説明がありました。ところが困ったことに、一滴の汗も出ません。そこでスタッフが、どこからともなく取り出したのは、水の入った霧吹き。胸に吹きかけられ、カメラが回ります。番組では、その時回収された汗の成分の結果が・・・。実は、Kさんは30年前の私。当時NHKで放送されていた生活科学番組「トライ&トライ」の取材でした。前身は「ウルトラアイ」で、現在の「ガッテン」につながる人気番組でした。数年前には倉敷の大学病院で、同取材班からデータのねつ造を依頼される出来事(公にはなっていませんが)がありました。そして、このたびの「睡眠薬で糖尿病が治る」と放送してしまった事件。公共放送でも視聴率なのでしょうか。信頼されているからこそ、罪は大きく悪質だと感じます。一方で、民放の健康番組は、少々怖がらせる場面もみられますが、短時間でメリハリをつけた内容のため、“言いたいこと”が伝わりやすく、好感がもてます。「結局何が言いたいのか?」が不明の「ガッテン」よりも、はるかに健全かもしれません。

自らが鮮烈な体験をしているので、私は健康情報に戸惑っている患者さんの姿を見ると、つい一生懸命語ってしまうのです。皆さまが情報洪水の中で漂流しないように、濃霧の中を照らす灯台の明かりになれれば(・・・少し大げさ?)、と思う今日この頃です。