(2019年4月)

~ 適度な運動を心がけましょう ~

岡山マラソン、東京オリンピック・パラリンピックの開催などで、運動への関心は高まっているようです。フィットネスクラブや各種の運動施設も増え、環境は昔より充実しています。一方、この20年ほどで、男女とも1日約1000歩の歩数減少がみられるとのことです。江戸時代のお伊勢参りは、一般庶民が、1日平均30km歩いたとのこと。二足歩行で歩くというヒトの長い歴史の中で見れば、“歩かなくなった”のは、つい最近の出来事です。急な変化に身体が追いつかず、結果として生活習慣病を招いているとも言えます。

健康診断の際に異常がみられると、指導欄には、“・・・適度な運動を心がけましょう”というコメントをしばしば目にします。高血圧・糖尿病・脂質異常症・メタボなどの、生活習慣病の改善には、運動が有効です。一般的な健康維持にも役立つと考えられます。では、どのような運動のことを“適度”と言うのでしょうか? 生活習慣病の予防や改善を目的とした運動のポイントとしては、以下の2つに集約できるでしょう。

1)息切れしない程度の運動を長時間。 1回30分以上、週3日以上が理想です。ウオーキング、水泳、自転車、スロージョギングなど。お勧めはスロージョギングです。学会などでも推奨されています。筋肉も鍛えられ、ウオーキングよりも楽に、より多くのカロリーを消費できます。単にゆっくりと走ることではありません。足の指のつけ根あたり(フォアフット)で着地しますが、筋肉の使い方が高まり、膝が悪い人でも負担が軽くなります。ゆっくり、会話ができる程度のペースで、歩幅は小さく、当然スピードも最初はゆっくりで構いません。上記の各種運動は、内臓脂肪の減少、血圧の低下、糖・脂質代謝の改善などの効果がみとめられています。心臓病や脳卒中の予防だけでなく、認知症・骨折・がんの予防にも有効です。反対に、短時間で筋肉を強く使う運動は、足腰の筋力低下予防や、骨粗鬆症予防などに効果が期待できます。足の筋肉量は、40歳頃から自然に低下し始めています。

2)一人で手軽にでき、続けやすいこと。 日常生活の中で、運動の機会を見つけることが有効です。1)で示した運動を、すきま時間を利用して行いましょう。一駅手前で下車して歩く、エレベーターではなく階段を利用するなど。6年前に厚労省は、「1日10分多く身体を動かそう!」と提唱しました。プラス10分により、1年で1.8kgの脂肪減少効果があるとされます。20分以上運動しないと十分な効果がない、という説は、医学的根拠に乏しいようです。

運動の効果を発揮するためには、適切に栄養を摂ることと、十分な休息(特に睡眠)が前提となります。高齢者では、食事制限だけによる急なダイエットを行うと、筋肉も落ちてしまいやすいので、運動を主体にしましょう。膝痛・腰痛・麻痺などのある方では、悪化しないよう、個々の状態に応じて、適した運動を見つける必要があります。

運動の時間帯も考えましょう。寝起きの脱水状態で、水分も摂らずに運動に出ることは危険です。生活習慣病で治療中の患者さんでは、真冬の早朝、血圧が一番高い時間帯に、寒い戸外へ身をさらすこと自体が事故につながりかねません。夏の猛暑日は、水分を補給して、日が昇る前に出かけるか、高齢者の場合、外での運動自体を控えた方が良いでしょう。「命をかけてまで散歩に行くのは、やめて下さい!」と、お願いすることもあります。

今の子どもは、よく運動するか、全くしないかの二極化傾向のようです。女子中学生の運動量が少なく、この時期に高めておくべき骨密度が少ないと、将来骨粗鬆症が心配されます。青年期までの運動が体づくりにつながるため、幼児期に楽しい運動体験ができる環境も重要ですね。