2017年8月

~お口の健康を考える~

「入れ歯が合わず、痛いし上手くかめなくて・・・」「抜歯予定ですが、薬を中止してもよいのですか?」「口が渇いて困ります」歯や口腔内の訴えを、日頃からよく耳にします。歯科との連携を意識して診療する機会も増えました。例えば、骨粗鬆症の治療中や、血液サラサラのお薬を処方中の場合では、抜歯での注意点を説明します。先日、歯科との連携を考える会合があり、歯科検診の重要性を再認識しました。とりわけ全身の病気とつながりが深い「歯周病」については、もっと情報発信するべきではないかと感じています。

歯があるのに、かめない?
日本人の“お口の健康”は変化してきています。「8020運動」をご存じでしょうか?日本歯科医師会が厚生労働省と推進する「80歳になっても20本以上の自分の歯を保とう」という運動で、平成元年に始まりました。当初は達成率7%でしたが、近年は50%と目標を上回ります。一方で歯周病、唾液の減少、義歯トラブル、嚥下(のみこみ)の障害などが問題化しています。要介護の状態や脳梗塞の後遺症のために、歯磨きが難しくなったり、歯があってもかめないとなると、食物のカスや歯垢が残りやすく、口腔内環境は悪化します。

歯周病は国民病
日本人が歯を抜くことになる原因の一番は歯周病です。中高年者の約80%が罹患していると報告されます。歯周病は、歯を支える骨や歯肉などの歯周組織が、歯周病菌に破壊される感染症です。初期症状は、歯磨きでの出血、口臭が気になる、歯肉の腫れ・痛み等ですが、つい放置してしまいます。歯周病の人が、歯の周囲に起こす炎症の総面積は、手のひらサイズにもなります。歯周病菌は、歯と歯肉の隙間で歯垢(プラーク)を作って増殖します。歯肉が炎症を起こして赤く腫れて出血します(歯肉炎)。軽度の段階であれば、適切な歯磨きや歯垢・歯石の除去で改善が期待できます。歯肉の炎症が深くまで広がると、歯を支える骨(歯槽骨)が溶け始めます。歯肉が下がり、歯と歯の隙間が目立つようになります。歯は細長く見え、ぐらついて不安定に。土台を失った歯は、やがて抜け落ちてしまいます。ゆっくりと進行し、体質にもよりますが、この間15~30年程度。糖尿病患者さんや、男性の喫煙者では進行が早まります。歯周病を予防し進行させないためには、生活習慣の改善とともに歯周病菌の除去が必要です。若い時期からの丁寧な歯磨きと、定期的な歯科検診による歯垢や歯石の除去が有効です。

歯周病は全身病
最近の研究で、歯周病は全身の病気に関与することが明らかとなっています。進行すると、炎症に関わるタンパク質や歯周病菌自体が歯肉から血液中へ流れ出し、臓器や血管壁にたどり着くと、全身にさまざまな影響を及ぼすのです。関与する疾患としては、糖尿病、心血管病(脳卒中・心筋梗塞などの動脈硬化性疾患)、骨粗鬆症、関節リウマチ、妊娠時の早産や低体重児出産(妊娠中は歯周炎になりやすい)などです。中でも糖尿病患者さんは、歯周病になりやすく、逆に歯周病治療により血糖値が改善することが報告されています。岡山県では医師会と歯科医師会の連携のもと、糖尿病対策のため、歯周病チェックの啓発に力を入れています。歯周病菌が食べ物などに混ざって肺へ入ると、誤嚥性肺炎にもなりやすくなります。歯は、咀嚼(かむこと)だけでなく、嚥下にも重要な役割を担っています。誤嚥性肺炎の予防には、食べる力・のみこむ力の維持と、口の中を清潔に保つことが重要です。

ドライマウス(口腔の乾燥)も歯周病の原因
ストレスは免疫を低下させ、唾液を減少させます。服用しているお薬によっては、唾液が出にくくなる場合があります。ドライマウスは、虫歯や歯周病、義歯が不安定になる、などの弊害を生じます。話す、呼吸する、食べる、表情を作る、いずれも唾液の刺激となり、お口の良好な環境づくりに役立ちます。おいしく楽しんで食べることで歯を残しましょう。

歯周病かかりやすさチェックリスト
ひとつでも当てはまれば歯周病の可能性が高くなります(日本歯周病学会/日本臨床歯周病学会)
□ 60代以上
□ 歯磨きを毎日はしていない
□ かかりつけの歯科医院がない
□ 喫煙者
□ 歯の定期検診を受けていない
□ 更年期(女性)
□ 糖尿病
□ 歯ぎしりのクセがある
□ 親が40代で総入れ歯