2014年8月
 
~健診で「異常なし」は、健康?~
 
「バスケットボール選手は身長が高い」けれども、「バスケットボールをすれば身長が高くなる」とは限りません。「健診を受ける人は平均寿命が長い」というデータがあっても、「健診を受ければ寿命が長くなる」とは限りません。健診受診者は、もともと健康志向が高いとも考えられます。統計や調査結果は、“まやかし”に注意して読み取ることが必要です。

4月、新聞に「健康な人が増える?」(毎日)、「健康基準広げます」(朝日)、といった見出しが踊りました。日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が公表した新基準(基準範囲)の報道です。「基準範囲」とは、健診の血液検査結果などで、「異常なし」とされる範囲のことです。新基準では、血圧や悪玉コレステロール値などが、以前より緩めに設定されたことが問題化しました。5月には各専門学会から、「多くの国民に誤解を与える」「世界の常識からかけ離れたもの」などの批判が噴出。反響の大きさに、同学会もあわてて釈明していますが、誤解は解けずじまい。挙句の果てに「10年くらい経過をみないと分からない」と・・・。

健診では、「基準範囲」に入っていれば大丈夫、というものではありません。一方、「診断基準」は、各専門学会がきちんとした根拠の下に定めており、病気になる危険性が高まるのはどのあたりからかを示します。「基準範囲」は病気予防のための数値ではないということです。このたびの新基準の調査書を読みますと、費用のかかる人間ドックの受診者という特定の集団の中で、「“健康かな?” と思われる人は、これくらいの値の範囲でした」と言っているだけなのです。「予防医学的な観点から設定した」と書かれていますが、そうなっていません。危険なことは、持病のある人が新基準をもとに「異常なし」と自己判断してしまうことです。健診の「基準範囲」が、老若男女問わず一律の数値だったことこそが問題だったはずです。

「健康」の概念は、WHO(世界保健機関)憲章にあるように、「身体的・精神的・社会的に満たされた状態で、単に病気の有無で決まるものではない」とされます。健診の数値だけで「健康な人」を定めるという今回の報告はあまりにも“おこがましい”ものだと考えます。

小手先だけの変更をする前に、もっと重要なことがあるはずです。特定健診(メタボ健診)の解析です。6年前から開始され、40~74歳の受診者の膨大な検査データが電子化されて蓄えられています。生活習慣病の予防に役立てるため、疾病発病との関連性を解析する壮大な国家プロジェクトだったはずです。ところが昨年秋、5億円をかけたシステムの設計ミスが判明。厚労省は「想定外だった」と・・・。同省は、来年度からこの健診項目の見直し作業を始めるとしています。膨大なデータの評価ができないうちに、「無かったことにして、こっそりデータを取り直そう」という官僚的な考えが見え隠れします。

このたびの基準値騒動は、誤報もありましたが、残念ながら原因は学会の見識不足です。人間ドック学会のホームページには、週刊誌の内容に対する釈明の文書が掲載されています。文頭の宛名には「会員各位」と記載され、“会員の先生方にはご迷惑を・・・”。こんなところに、内向きな組織の体質が垣間見えてしまうものだと感じました。