(2020年10月)

~ 肺炎を予防する ~

日本人の死亡原因の中でも、がん・心臓病・脳卒中に次いで多いのが、肺炎です。年間約10万人が肺炎で亡くなっており、90%以上が高齢者となっています。肺炎を起こすと、咳・たん・発熱などの症状が出ますが、年齢とともに発症に気づきにくくなります。たとえば、発熱がなく、普通の“かぜ”と間違える場合があります。咳がなく、食欲不振、息切れ、ぐったり、といった症状だけの場合もあります。肺炎は高齢者の体力を奪い、その後もくり返し肺炎になりやすくなります。脳梗塞の既往がある人や、慢性の肺の病気(気管支喘息やタバコ肺)、心臓病、腎臓病、糖尿病、リウマチ、免疫を抑える治療が必要な病気などでは、肺炎になりやすい傾向があります。

肺炎の原因となる病原体は数多くあります。いわゆる“かぜ”の原因となる、さまざまな「ウィルス」も、肺炎を起こしたり、肺炎を起こす引き金となることがあります。ウィルスが感染して呼吸器に障害を受けると、しばしば「細菌」の感染も合併します。細菌性の肺炎では、原因として最も多いのが「肺炎球菌」です。細菌性の肺炎に対する治療には、抗生物質が使用されます。ペニシリンの発見以降、抗生物質の開発が進み、全世界が恩恵を受けてきました。しかし抗生物質は決して万能ではなく、細菌の側も、いつかは抗生物質に抵抗力をもつようになります(耐性菌)。免疫力の落ちた高齢者では、治療自体が効きにくい面もあり、一層予防が大切になります。高齢者では、インフルエンザウィルスの感染がきっかけで、しばしば肺炎を合併します。インフルエンザ自体による肺炎だけでなく、インフルエンザで障害を受けた肺に、細菌が感染して悪化します。この場合も、一番多い原因が、肺炎球菌となっています。

現在、日本で接種可能な、肺炎予防のためのワクチンには2種類あります。「インフルエンザワクチン」「肺炎球菌ワクチン」です。2014年10月から、高齢者に対する23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス®)の定期接種化が始まり、50%を超える接種率となっています。肺炎球菌には多くの型があるため、全てをカバーするわけではありません。肺炎球菌ワクチン自体には2種類のワクチンがあります(ニューモバックス®と プレベナー®)。両方を接種することで、さらに免疫を強くすることが期待できます。ニューモバックス®接種から5年以上経ってからの、再接種も勧奨されています。

飲み込む力(嚥下機能)の低下によって起こる肺炎を、誤嚥性肺炎といいます。食べ物や唾液を、間違えて気管の方に飲み込んでしまうことが原因です。誤嚥性肺炎も、肺炎球菌が関わることが多く、とても治りにくい肺炎です。

肺炎は予防が大切な病気です。栄養に気をつけた食生活や、適度な運動はもちろんのこと、誤嚥性肺炎の予防には、口の中の環境に気を配り(歯や歯周炎の治療、よく噛んで唾液の分泌を維持する、義歯の手入れ)、会話や発声につとめ、食事の姿勢(顎を引いて飲み込む)にも注意したいものです。そして、何よりもワクチンの接種です。早めの備えと、予防に対する知識をもって、元気に冬季を乗り越えましょう。