2016年11月

~フレイルを予防する~

「高齢者の身体・知的機能が、ここ10~20年の間に10歳ほど若返っている」ということが、2015年の日本老年学会で報告されました。健康志向、栄養状態の改善、医療の貢献なども影響しているのでしょう。一方で、かつてない勢いで進む高齢化のために、生活習慣病・がん・骨折・認知症などは増加の一途をたどっています。

病気や介護で日常生活を制限されることなく、自立して過ごせる期間のことを「健康寿命」といいます。日本の健康寿命は、74.9歳で世界一です(男女平均WHO2016年)。とはいえ、平均寿命と比べると、男性で約9年、女性で約13年ほど短くなっています。超高齢化社会の日本では、健康寿命と平均寿命の差を縮めることが求められています。

加齢に伴い、老い衰えることを「老衰」などの言葉で表現しますが、身体能力の低下が進行し、もう戻らないイメージがあります。かわりに、近年「フレイル」という言葉が使われるようになりました。「フレイル」はFrailtyの日本語訳で、以前は「虚弱」と訳されていましたが、そのままカタカナで「フレイル」と表現します。要介護となる一歩手前の状態で、加齢に伴い、筋力や活力が低下した段階をいいます。外から加わるストレス(軽度の感染症や事故、手術など)に対して脆弱になってきます。フレイルを経て徐々に要介護・ねたきりの状態へ陥ってしまいます。フレイルは、精神心理的側面(認知症、うつなど)、社会的側面(独居、施設入所など)も含めた、多面的な衰えを表します。単なる身体の衰え(骨折、筋力低下、歩行速度低下など)のことではありません。

[やさしい フレイル・チェック]
下記5つの質問のうち3つ以上満たす場合、要介護・転倒などの危険性が高い状態です。
□ 6か月間で2~3kg以上の体重減少がありましたか?
□ 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか?
□ ウォーキングなどの運動が、週に1回もできていない?
□ 5分前のことが思い出せないことがありますか?
□ (ここ2週間) 訳もなく疲れたような感じがしますか?

2013年の調査では、持病のない65歳以上の高齢者のうち、約10%がフレイルの状態にあるとされます。予防のためには、さまざまな衰えに対して、早い段階で気づき、自助努力や援助によって予防していくことが重要です。タンパク質を含む食事や、適度な運動を取り入れ、社会活動やボランティアへの参加などで進行を遅らせ予防することが求められます。予防の重要性を啓発するために作られた言葉がフレイルなのです。

[フレイル予防のための3つの柱]
1 栄養:しっかり噛んで、しっかり食べる
歯科・口腔の定期的な管理/タンパク質を含む、栄養バランスを考えた食事
2 身体活動:運動・社会活動
しっかり歩く/無理のない範囲での筋肉トレーニング
3 社会参加:就労・余暇活動・ボランティア
前向きな社会参加/お友達や家族と一緒にご飯

[メタボとロコモを予防し、認知症と寝たきりを予防しよう!]
3年ほど前に「加齢と生活習慣病」と題して講演会をさせていただいた際に、私が強く提唱した標語です。“メタボ”は、ご存じメタボリックシンドロームのことです。過食や運動不足によって増えた内臓脂肪がもとで、様々な生活習慣病を引き起こします。“ロコモ”は、ロコモティブシンドロームの略称です。足腰が弱って歩けなくなることをいいます。つまり、生活習慣病を予防し、足腰が弱らないようにすることが、認知症や寝たきりの予防につながるのだという意味です。糖尿病を代表とする生活習慣病は、認知症に関わることが明らかとなっています。高齢者の“やせ”も問題ですが、体重増加による膝や腰の痛みのため運動不足になり、肥満(メタボ)からロコモになるという悪循環に陥ることも。高齢者の歩行の特徴は、歩行速度の低下です。速く歩ける人ほど長生きという研究結果もあります。人が歩く、移動するということは、年を重ねても自分の意思を実現することであり、健康な足腰がそれを支えるのです。“ロコモ”や“サルコペニア”は、身体的なフレイルに含まれます。フレイル予防としても大切な、「メタボとロコモを予防し、認知症と寝たきりを予防しよう!」を合言葉に、皆さまが今の住み慣れた暮らしを続けながら元気で過ごせるよう、当院も微力ながら、その一助となれれば幸いです。