~脂質との付き合い方(その1)~
沖縄は、温暖な気候や伝統的食文化の恩恵もあり、1995年に「世界長寿地域宣言」を出した長寿県でした。ところが、わずか5年後には、沖縄県男性の平均寿命が全国26位に急落し、“沖縄ショック(26ショック)” とも言われました。日本で最初にファストフード(フライドポテト・ハンバーガーなど)のお店が登場し、人口当たりの店舗数は東京を上回ります。肥満率は全国トップ。買い物は自動車で郊外の大型店へ。沖縄で起こった変化は特別な事なのでしょうか?最近の私たちが経験していることであり、日本人全体の変化を先取りしたものと考えられるでしょう。
人類の長い進化の過程で、自動車やテレビ・インターネットの普及は、ほんの一瞬の出来事です。ヒトは急に動かなくなり、飽食の時代を迎えました。このことは、人類の進化に何をもたらしたのでしょうか(図)? 豪華で脂肪分の多い食事は、古来中世ヨーロッパをはじめとした世界中で、上流階級の富や権力の象徴として利用されました(『脂肪の歴史』ミシェル・フィリポフ著)。20世紀後半にアメリカから広がった高脂肪なファストフードの登場で、健康面への影響が懸念されるようになりました。一方で、脂肪は必要な栄養分でもあり、料理の旨味や食感に重要な役目を果たします。入院中に出される低脂肪食を試食すると、パサパサで食べれたものではありません。
「コレステロール値 高いと長生き?」(読売新聞平成22年9月3日)センセーショナルな記事が紙面をにぎわしました。統計処理の間違いが原因でしたが、当時は学会でも議論が巻き起こりました。悪玉のLDLコレステロールが高ければ、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞などの発症に関わることが明らかとなっています。治療薬を開発した遠藤博士は毎年ノーベル賞候補に挙がります。一方、健康診断や人間ドックなどで、少しでも異常値が出れば一律に「要精査」「要治療」などとされる点は問題だと思います。治療が必要だとしても、持病の有無や、性別・年齢を考慮の上、その人その人に合った目標を立て、運動の継続や、脂肪酸(油の主成分)に着目した食事の指導も大切になります。動脈硬化には、血糖・血圧・尿酸・中性脂肪・喫煙習慣・肥満(運動不足)なども関わってきます。脂肪を摂らないようにすればよい、という単純なものではありません。当院では、血管年齢も考慮に入れた総合的な観点から情報が提供できるように努めています。機会を改めて、もう少し具体的な話をさせていただければと考えています。