2016年2月

~塩と高血圧(その1)~

塩の歴史を紐解けば、縄文時代までさかのぼります。土器で海水を煮詰めて塩を作りました。山間部に暮らす人たちは、江戸時代以前より、貴重な塩を手に入れるため、薪(たきぎ)などと塩を交換しました。沿岸部の人たちとの間に塩の交易路ができました(『塩の道』 宮本常一 著)。やがて瀬戸内の塩田で作られた塩が普及していきます。「盛り塩」、土俵にまく清めの塩など、日本文化とも深く結びついている塩。東北地方などの寒冷地域では、食物の保存に欠かせず、その結果必要以上に塩分を摂取することになりました。

ヒトは進化の過程で細胞の周囲を海水(食塩水)で満たすことによって、陸上での生活を獲得しました。ヒトの体には、もともと塩分を体内に保持しようとする働きがあるのです。したがって、塩分を過剰に摂取しがちな現代人には、健康への影響が出てきやすくなります。代表例が血圧への影響です。

2011年の国民健康・栄養調査では、国民1人1日あたりの食塩摂取量は、平均10.4g (男性11.4g、女性9.4g)で、徐々に低下傾向にあります。国の施策としては、2022年までに国民の平均食塩摂取量を8gにすることを目標としています。高血圧患者さんの多くは、減塩だけで血圧を十分に下げることは困難ですが、1日1gの減塩で血圧の値が1(mmHg)下がるとされます。少なくとも1日6.5gまで塩分制限した場合には、減塩の効果が期待されるようです。日本高血圧学会の推奨する目標値は、1日6gです。

グラフは、当院のデータです。高血圧患者さんの食塩摂取量を表します。横軸は1日あたりの食塩摂取量です。平均11.7gで、6g以下を達成できている人は、78名中5名だけでした。そのうちの2名は、塩分過剰になりがちな漁師さんの家庭です。すでに厳しい減塩指導をされているため、このような値が出せています。実際のところ、6gは大変厳しい数字ですね。まずは自分の摂取量を理解した上で、10gを切ることを、または8g程度を目指しましょう、と説明しています。次回は、もう少し具体的な話に移りましょう。