2017年4月

~脂質との付き合い方(その2)~

Q ところで、動脈硬化とは?(以下LDL/HDLコレステロールを、単にLDL/HDLと略します)

A 老化により動脈の弾力性が失われ、内側に“プラーク”とよばれる脂肪の老廃物がこびりついてしまう状態のことをいいます(図)。心臓から出る血液が流れる血管が「動脈」です(心臓に帰るのが「静脈」)。動脈硬化が関与する病気は、心筋梗塞や脳梗塞などの、「心血管病」が代表例です。日本人の死因や寝たきりの原因として、“がん”と並んで多い病気です。動脈硬化の原因を“危険因子”といいます。危険因子には、加齢・男性・喫煙・高血圧・LDL高値・HDL低値・糖尿病(予備軍も)・若年で心筋梗塞になった近親者がいる・腎臓病・脳梗塞の既往・足の血行が悪くなる病気・中性脂肪高値・高尿酸血症・睡眠時無呼吸症候群・腹部大動脈瘤など、多くのものがあります。危険因子の数が多い人ほど、動脈硬化が進行しやすいのです。

Q そもそもコレステロールとはどんなもの?

A 中性脂肪(いわゆる脂肪)や脂肪酸などの、“脂質”とよばれる栄養分の仲間です。食事から摂取されるコレステロールは20~30%で、残りは体内で作られたものです。細胞、ホルモン、消化液などの原料として利用されます。コレステロールそのものは血液に溶けないため、運び屋タンパクに含まれて血液に溶けた状態で身体の隅々に運ばれます。運び屋タンパクの種類によって、性質が異なります。LDLは、血管の壁に入り込みやすく、変性されて動脈硬化の原因となります。一方HDLは、不要になったコレステロールを運び出すことで動脈硬化を抑制します。LDLを悪玉、HDLを善玉と表現するのは、このような理由からなのです。

Q コレステロールの値はいくらが良いのですか?

A LDLは危険因子の中でも、最も管理を必要とする脂質です。健診の基準値では、LDLが120~140mg/dl以上、HDLが40mg/dl未満で「脂質異常症」の疑いとなりますが、これは単なる線引きです。診療の場では、学会が示す指針に基づき、危険因子も評価した上で、総合的に判断します。例えば、糖尿病を指摘された場合、それだけでも、LDL120mg/dl以下が望ましいとされます。心筋梗塞の既往がある人では、再発予防の治療のため、LDLを70mg/dlまで下げる厳格な管理が必要になります。

Q コレステロールが高い人は、卵を食べない方がいいの?

A 卵はコレステロールが多い食材ですが、問題ありません。食事から摂取されるコレステロールは多くなく、過度な制限は必要ありません。ただし、治療の必要な人が、いくら食べても良いわけではありません。食事療法のポイントは、コレステロール含有食品を控えることよりも、脂質の成分である脂肪酸に着目することが大切です。日本人は、べに花油・コーン油などの植物性の油であるリノール酸が過剰気味です。ラードなどのコテコテの油を好む欧米人には意味があるでしょうが、油である以上、1gあたり9kcalもあります。α-リノレン酸は、えごま油・あまに油などに含まれ、体内では有名なDHAやEPAという脂肪酸に変化して、動脈硬化を予防します。DHAやEPAはお魚にも含まれています。特にアジ・サバ・イワシなどの青魚。中性脂肪を下げ、HDLを上げる方向に働きます。バランスが大切で、動物性脂肪が良くないとは言っても、成長期のエネルギー源として大切な油です。コレステロールが気になる牛乳や乳製品も、貴重なカルシウム源・タンパク源でもあるのです。

Q 最近耳にするトランス脂肪酸とは?

A 人工的に作られた加工油で、マーガリンやショートニングなどに含まれます。LDLを増やし、動脈硬化の進展に関わります。日本人の摂取量はもともと少ないとの理由で、国は積極的な規制対象とはしていませんが、表示の義務化が望まれるところです。

Q 運動療法の効果は?

A 糖尿病やメタボには特に効果的です。ウォーキング・水泳・スロージョギングなどの軽い(息切れしない程度の)運動を、“30分以上、週3回以上”が基本です。中性脂肪を下げ、HDLを上げる効果が期待でき、動脈硬化進行予防にも有効です。

Q なかなか検査値が改善しません。お薬による治療が必要ですか?

A 目標値にとどかない場合は、上記のことを理解していただきながら、服薬を勧めます。特に心血管病の再発予防の場合、ほとんどの場合で服薬が必要です。発症するまで自覚症状が無いのが心血管病の特徴です。また、甲状腺ホルモンの異常などが隠れていて、脂質異常を起こす場合もあります。当院では諸検査をしながら、年齢や血管の状態も考慮に入れ、その人その人に合わせた安心できる管理を心がけています。