ピロリ菌と胃がん

(2018年2月)
胃炎に対して、ピロリ菌の除菌(胃がん予防のための除菌治療)が保険適用となって5年を迎えました。日本では、毎年約5万人が胃がんで亡くなってきました。胃がん内視鏡検診もはじまり、10年後には、胃がんで亡くなる人は激減しているはずです。

胃の中は胃酸による強い酸性環境のため、通常の細菌は生存できないという“思い込み”がありました。オ-ストラリアの医師ウオーレンとマーシャルはピロリ菌を発見し、1982年には培養に成功、2005年ノーベル賞を受賞します。まさにコペルニクス的転回です。マーシャル自ら実験台となり、ピロリ菌を飲んで胃炎の発症を証明しました。

ピロリ菌の正式名は、「ヘリコバクター・ピロリ」で、ヘリコは“らせん型”という意味です。一方の端に複数の“べん毛”とよばれる毛が生えており、活発に運動します。胃の粘液中で活動し、ウレアーゼという酵素によって自分の周囲をアルカリ性にします。胃酸を中和して身を守るわけです。多くは乳幼児期に口から入ってきて感染(経口感染)が成立します。感染率は、60歳以上ではで60~70%ほどで、衛生環境が影響すると考えられています。上下水道が完備されていなかった時代に生まれた世代では高くなっています。


ピロリ菌の感染によって、ほぼ全ての人に「慢性胃炎」が起こります。進行すると「萎縮性胃炎」となります。胃粘膜が薄く変化し、胃がんの芽ができやすくなります。一連の変化の原因がピロリ菌だと分かるまでは、加齢に伴う変化と考えられ、医師は「あなたの胃は年をとっていますね」などと説明していました。2000年頃からは、ピロリ菌の胃がんへの関与は確実なものとなってきます。胃がんの95%以上は、ピロリ菌の感染による胃炎が原因とされます。除菌によって胃がんの発生率が下がることも証明されました。


日本は、早期の胃がんを見つける診断技術と、内視鏡や手術で治療する技術ともに世界一です。保険適用に伴い、除菌前の内視鏡検査が義務づけられたため、治療可能な早期の段階で胃がんが見つかる可能性も高くなってきています。
今や胃がんで命を落とすことは、もったいない時代になりました。ピロリ菌が見つかれば、除菌治療が必要となります。理想的には30歳代までに除菌しておくことが推奨されます。中高年の人では、乳幼児期から何十年も住み着いてきたピロリ菌の影響は、除菌後も残りますので、油断せず、きちんと経過観察をしていくことが何より大切です。